双子のパラドックスとかいうアレ

特殊相対性理論によれば、動いていると時間の進みが遅くなります。
ところが「どちらが動いているか」は、あくまで相対的なものであるために
・AさんからBさんを見たときは、Bさんの時間が遅れ
・BさんからAさんを見たときは、Aさんの時間が遅れる
という、わけがわからないよ状態になることを前回まで書きました。

図1:相対論的効果による時間の遅れ。AさんからBさんを見た場合は、Bさんの時間が遅れる。逆にBさんからAさんを見た場合は、Aさんの時計が遅れる。
図1:相対論的効果による時間の遅れ。AさんからBさんを見た場合は、Bさんの時間が遅れる。逆にBさんからAさんを見た場合は、Aさんの時計が遅れる。

これは「双子のパラドックス」とも言われる、有名なパラドックス(矛盾)です。
なぜ「双子」と言うのかといえば、話をおもしろくするために、AさんとBさんは双子という設定にするからです。
というわけで、ここでもAさんとBさんは双子ということにします。
どう見てもBさんの方が歳を食っているように見えますが、人を見かけで判断してはいけません!ヒゲが生えているからです、きっと。

ここで、こんな疑問が生まれます。
「AさんとBさんに、それぞれ時計を持たせて、後で比べたら、結局どちらの時計が遅れてるのだろう??」

結論から言うと
動くスピードや方向を変えているBさんの時計が遅れるのですが、それについて説明します。

■「比べる」には、同じ場所にいなければならない

まず「比べる」には、同じ場所にいる必要があります。

日本にいるAさんの時計と、アメリカにいるBさんの時計を比べようとしても、できませんね。
Aさんがアメリカに行くか、Bさんに日本に来てもらう必要があります。

「電話かメールすりゃいいじゃん!」と思うかも知れませんが、電話でもメールでも、「情報」を伝えるには、その情報をもった”何か”を相手まで届ける必要があります。
手紙ならば手紙、電話やメールならば電気信号を送るわけですが、「どんな物質も光より速く動くことはできない」と相対性理論からわかっていますから、情報の伝達スピードには、光の速度という上限があるわけです。

もちろん光で伝えるのが一番速いわけですが、そうなると光速度不変の原理などから色々ややこしいことが出てくるのです。
というか、冒頭で述べた
・AさんからBさんを見たときは、Bさんの時間が遅れ
・BさんからAさんを見たときは、Aさんの時間が遅れる
というのが、まさに光で情報をやりとりしたときに起こる現象なのです。
(このブログでは基本的に式は書かないので、数式で知りたい人は本などお読みください)

そのため、AさんとBさんの時計を比べたければ、2人が同じ場所にいる必要があります。
(時計だけ同じ場所にあれば、いいんじゃない?と、ツッコむ人もあるかもですが、本質的に同じだということは書く必要ないですよね??)

あるいは時空を超えたテレパシーとかをAさんとBさんがお互い使えればいいのですが、今回はAさんもBさんも、ふつーの一般人ということで、カンベンしてください。

■「比べる」には、加速・減速が必要

まず、AさんとBさんが同じ場所で時計をあわせてから、Bさんが出発するとしましょう。
ここでBさんは、実は改造人間で、奥歯のスイッチを噛むことで、光速の99.5%まで加速できることにします。
それならテレパシーくらい使えそうですが、あくまで一般人です。Bさんの動きを見てみると

図2:時計を比べるためのBさんの動き
図2:時計を比べるためのBさんの動き

1.Bさんは、どんどん加速していきます。
2.光速の99.5%まで加速したら、そのまましばらく走ります。
3.このままだとBさんは宇宙の彼方までいって帰ってきませんので、適当なところで減速します。
4.そのあとは(相対性理論の効果が無視できるくらい)ゆっくり帰ってくるとしましょう。

※よくある設定では、4でゆっくり帰ってくるのではなく、Aさんの方に向かって加速→等速直線運動→減速をするのですが、時間の遅れが2倍になるだけなので、ここでは、ゆっくり帰ってくることにします。

実はこのとき、特殊相対性理論をそのまま適用できるのは「2」のときだけです。(もちろん4もだけど無視)

というのも、特殊相対性理論の原理(前提)を思い出すと
・光の速度は常に変わらない(光速度不変の原理)
・電気と磁気の法則は、止まっている物体でも等速直線運動をしている物体でも同じ(特殊相対性原理)
というものでした。

図:相対性理論は「光速度不変の原理」と「特殊相対性原理」をもとに作られた理論。
図3:相対性理論は「光速度不変の原理」と「特殊相対性原理」をもとに作られた理論。

この「特殊相対性原理」をよく見ると、”等速直線運動”と書いてあります。
ということは、スピードが変わったり(等速じゃない)、動く方向が変わったりする(直線じゃない)場合には、特殊相対性理論は使えないのです!
こうした場合は、一般相対性理論を使わねばなりません。

なので実は「時計を比べる」ときには、一般相対性理論の効果も入れねばならなくなってくるのです。

※ただし、一般相対性理論を認めてしまえば、加速・減速中の時間の遅れも、特殊相対性理論の場合と同じ式が使えるので、Wikipediaの説明では特殊相対性理論の式が使われています。

で、それも踏まえて考えると、結局、時間が遅れるのはBさんの方になります。

■慣性力(かんせいりょく)がカギ!

Bさんの方の時間が遅れる理由を「一般相対性理論の効果だ!」とボカして書きましたので、これについてもうちょっと説明を加えます。

1~3のステップを、Aさんの視点から見ると、Bさんは
1.加速
2.等速直線運動
3.減速
と動いているように見えるはずです。

対して、Bさんから、Aさんを見たときにも
1.加速
2.等速直線運動
3.減速
と見えるはずです。

これだけ見ると、まったく同じで対称的なのに、どうしてBさんの方の時間が遅れることになるのか。

その秘密は、Bさんが加速(1)や減速(3)をしているとき、本当は動きが対称じゃないからです。
なぜなら、このとき、Bさんは力を感じているはずだからです。

車や電車に乗っていると、加速するときには後ろに引っ張られる力、減速するときには前につんのめりそうになる力を感じると思います。
満員電車で目の前にきれいなお姉さんが乗っているときに急ブレーキがかかると、ついお姉さんの方につんのめってしまって美味しい思いができるといいなー、と思いつつ
現実には目の前にいるのはオッさんで、オッさんのハゲ頭にぶつかってしまうというあの力です。
この力は 【慣性力(かんせいりょく)】 と呼ばれるもので、加速したり、減速したり、あるいは動く向きが変わったとき(これらをまとめて「加速度が0でないとき」と言います)に感じる力です。

Bさんが加速(1)や減速(3)をしているとき、Bさんはこの慣性力を感じます。
一方、Aさんが慣性力を感じることはありません。だって加速したり、減速したりしているのはBさんですから。隣の人が走り出したからといって、自分が急に後ろに引っ張られることはないのと同じです。
つまり、ここで、AさんとBさんの動きは対称ではないことが分かります。

図4:加速・減速中、Bさんは慣性力(かんせいりょく)を感じる。
図4:加速・減速中、Bさんは慣性力(かんせいりょく)を感じる。

これがBさんの方の時間が遅れる理由です。

これを一般相対性理論から説明すると、加速・減速・運動の方向が変わるとき(加速度が0でないとき)には、時間が遅れるので、結局、時間が遅れるのはBさんの方になります。

■今日のまとめ

・あとから時計を比べる場合、加速・減速・運動の方向が変わる側(加速度が0でない側)の時間が遅れる!

※細かい計算が気になる方は、Wikipediaか物理の本をお読みください。

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